リアクトルの発熱や効率を突き詰めていくと、「銅損でも鉄損でもない損失」が無視できなくなってきます。その代表がギャップ周辺で生じるフリンジング損です。名前は聞き慣れなくても、リアクトルの温度上昇や効率低下の一因として、設計現場では避けて通れないテーマです。本記事では、トランス・リアクトルを設計・製造する北川電機(KEC)が、フリンジング損の仕組みと、メーカーだからこそ語れる「ギャップの作り込み」による低減の勘所を解説します。
フリンジング損とは?
フリンジング損とは、エアギャップを持つ磁性部品(リアクトル・チョークコイル・ギャップ付きインダクタなど)で、ギャップからコアの外側へ広がる磁束が原因で生じる損失です。銅線の抵抗による銅損(コイル損)、コア材のヒステリシス損・渦電流損(鉄損)のいずれにも分類されない損失で、いわゆる漂遊損(stray loss)の一種として扱われます。
ギャップの縁では、磁束がコアの断面からはみ出すように膨らんで通ります。この膨らんだ磁束が近くの巻線やコア表面を横切ると、そこに渦電流が誘導され、ジュール熱として損失になります。これがフリンジング損です。
なぜリアクトルにはギャップが必要なのか
そもそも、なぜ損失の原因になるギャップをわざわざ設けるのでしょうか。リアクトルは、直流重畳や大電流が流れても磁気飽和させず、狙ったインダクタンスを保つために、磁路の一部にエアギャップを入れます。ギャップは磁気抵抗を意図的に大きくして、コアが飽和しにくくする役割を担っています。
つまり、ギャップはリアクトルにとって必要不可欠な要素であり、フリンジングはギャップの宿命的な副作用だと言えます。だからこそ「無くす」のではなく「いかに抑えるか」が設計の腕の見せどころになります。
フリンジング磁束と漏れ磁束の関係
フリンジング磁束は、ギャップ周辺に生じる「漏れ磁束」そのものです。本来コアの中だけを通ってほしい磁束が、ギャップの磁気抵抗が高いために、コアの外の空間(=空気中)へ回り込んで通ります。この、コアの外へ漏れ出して膨らんだ磁束を指してフリンジング磁束と呼びます。
- 漏れ磁束:磁路(コア)の外へ漏れ出す磁束の総称。
- フリンジング磁束:そのうち、ギャップの縁でコア断面からはみ出して広がる漏れ磁束。
ギャップが長いほど磁気抵抗が大きくなり、フリンジング(漏れ)はより遠く・より大きく広がります。この漏れ磁束の広がりを抑えることが、そのままフリンジング損の低減につながります。
フリンジング損が生じるメカニズム
フリンジング磁束は、主に次の2か所で渦電流を生み、局所的な発熱を招きます。
発生箇所 | メカニズム |
|---|---|
巻線(銅) | ギャップ近傍の導体をフリンジング磁束が横切り、導体内に渦電流が誘導される。近接効果と同様に、ギャップ付近の巻線ほど強く発熱する |
コア表面 | 積層方向と垂直に磁束が入ると、コア表面(積層面)に面内渦電流が流れ、ギャップ直近の局所発熱になる |
厄介なのは、フリンジング損がギャップのすぐ近くに集中して発熱する点です。全体の効率をわずかに下げるだけでなく、局所ホットスポットとなって巻線の絶縁や樹脂封止にダメージを与える恐れがあります。さらに、周波数が高いほど渦電流損は大きくなるため、SiC・GaNで高周波化した回路では、フリンジング損の影響がいっそう顕在化します。
フリンジング損を減らすには
フリンジング損対策の基本は、「漏れ磁束の広がりを抑える」「磁束が巻線を横切らないようにする」「横切っても渦電流を生みにくくする」の3つです。北川電機が設計で重視している観点を挙げます。
- ギャップの分割(マルチギャップ):1つの大きなギャップを複数の小さなギャップに分けると、1か所あたりのフリンジングの膨らみが小さくなり、全体の損失を抑えられる。フリンジング損低減の最も効果的な手法の一つ。
- 分布ギャップ材の活用:圧粉磁心(ダストコア)などは材料全体に微小なギャップが分散しているため、集中した大きなギャップができず、フリンジングが本質的に小さい。
- 巻線をギャップから離す配置:ギャップ近傍に導体を密集させない(セットバック・面取り)ことで、強いフリンジング磁束を横切る巻線を減らす。
- 素線の細分化・撚り線(リッツ線):導体を細く分割することで、フリンジング磁束による渦電流(銅損の増加分)を低減する。高周波用途で特に有効。
- ギャップ形状の最適化:ギャップ断面の形状を工夫し、磁束のはみ出し方をコントロールする。
これらは、磁気設計・巻線設計・製造・評価が一体でなければ実現できません。「カタログのインダクタンス値は出ていても、ギャップ周りで局所発熱している」という状態を避けることが、リアクトルの効率と信頼性を高めます。
北川電機のリアクトル設計
北川電機は、AC/DCリアクトルをはじめとする各種リアクトルを、用途・容量に合わせてカスタム設計・製造しています。ギャップ設計(マルチギャップ化)や巻線配置、真空注型・含浸による樹脂封止まで含めて、フリンジング損と局所発熱を抑え込む作り込みを行い、自社の評価技術で温度上昇・特性を裏づけます。
よくある質問
フリンジング損は銅損・鉄損とどう違うのですか?
銅損はコイル抵抗による損失、鉄損はコア材のヒステリシス損・渦電流損です。フリンジング損はそのどちらにも当てはまらず、ギャップから漏れ出した磁束が巻線やコア表面に渦電流を誘導して生じる「漂遊損」に分類されます。
ギャップを無くせばフリンジング損はゼロになりますか?
理屈上は減りますが、ギャップを無くすとリアクトルが磁気飽和し、必要なインダクタンスを保てなくなります。ギャップは必須のため、「無くす」のではなく「分割・配置・形状で抑える」のが現実的な対策です。
マルチギャップにするとなぜ損失が減るのですか?
同じ合計ギャップ長でも、複数の小さなギャップに分けると、1か所あたりの磁束のはみ出し(フリンジング)が小さくなります。結果として巻線やコアを横切る漏れ磁束が減り、渦電流損を低減できます。
高周波化するとフリンジング損は増えますか?
はい。渦電流損は周波数が高いほど大きくなるため、SiC・GaNで高周波駆動する回路ではフリンジング損の影響が顕在化します。素線の細分化やギャップ設計での対策がより重要になります。
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まとめ
- フリンジング損とは、ギャップから漏れ出した磁束(フリンジング磁束=漏れ磁束)が巻線・コア表面に渦電流を生んで発生する損失で、漂遊損の一種。
- リアクトルは飽和を避けるためギャップが必須。フリンジングはその副作用で、ギャップ近傍の局所発熱を招く。高周波化ほど影響が大きい。
- 低減策はマルチギャップ・分布ギャップ材・巻線配置・リッツ線・ギャップ形状の最適化。設計と評価の作り込みで抑え込む。
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