変圧器の巻線電圧の公式は、電気主任技術者試験でもおなじみの

$$E = 4.44\,f\,N\,\Phi_m$$

という形で覚えている方が多いと思います。ところがスイッチング電源やインバータの世界の資料を見ると、同じ位置に4.44ではなく4が書かれていることがあります。

これは「どちらかが間違い」ではありません。駆動する電圧波形が違うだけです。そして、この係数の違いを理解しないまま設計すると、コアが計算より11%ぶん飽和側に寄るという、実機で必ず痛い目を見る種類の間違いにつながります。

この記事では、正弦波と方形波それぞれの式をファラデーの法則から導き、4.44と4という数字の中身を分解します。そのうえで、設計と測定の現場でこの違いがどう効くのかを整理します。

まず結論:2つの公式

先に答えを並べます。どちらも実効値で書いた式です。

■ 正弦波で駆動する場合(商用周波の変圧器)

$$E = 4.44\,f\,N\,\Phi_m = 4.44\,f\,N\,B_m A_e$$

■ 方形波で駆動する場合(インバータ・高周波トランス)

$$E = 4\,f\,N\,\Phi_m = 4\,f\,N\,B_m A_e$$

  • $E$:巻線電圧の実効値[V]
  • $f$:周波数[Hz]
  • $N$:巻数
  • $\Phi_m$:最大磁束[Wb]
  • $B_m$:最大磁束密度[T]
  • $A_e$:コアの実効断面積[m²]

違いは 4.44 ÷ 4 = 1.11 という比だけです。この1.11が何者なのかが、この記事の主題になります。

出発点はファラデーの電磁誘導の法則

どちらの式も、元は1本の式です。

$$e = -N\,\dfrac{d\Phi}{dt}$$

巻線に生じる電圧は、鎖交磁束の「変化の速さ」に比例します。ここで大事なのは、電圧が決めているのは磁束そのものではなく、磁束の変化率だという点です。逆に言えば、磁束は電圧を時間で積分したものです。

$$\Phi(t) = \dfrac{1}{N}\int v(t)\,dt$$

磁束は「電圧波形の面積(ボルト秒積)」で決まる、ということです。この2式から先は、$v(t)$ にどんな波形を入れるかだけの話になります。だから係数が変わるのです。

関連記事ファラデーの電磁誘導の法則について解説します

正弦波駆動:なぜ 4.44 なのか

磁束が正弦波で変化するとします。

$$\Phi(t) = \Phi_m \sin\omega t \qquad (\omega = 2\pi f)$$

これをファラデーの法則に入れると、大きさは

$$e(t) = N\,\Phi_m\,\omega\cos\omega t$$

なので、電圧の最大値は次のようになります。

$$E_{\max} = \omega N \Phi_m = 2\pi f N \Phi_m$$

ここで出てくる $2\pi$ は、正弦波を微分したときの $\omega$ そのものです。

ところが実務で扱う電圧は最大値ではなく実効値です。正弦波の実効値は最大値を $\sqrt{2}$ で割ったものなので、

$$E = \dfrac{E_{\max}}{\sqrt{2}} = \dfrac{2\pi f N \Phi_m}{\sqrt{2}} = 4.44\,f N \Phi_m$$

4.44 の中身は 2π ÷ √2

つまり 4.44 という数字は、2つの由来を掛け合わせたものです。

$$\dfrac{2\pi}{\sqrt{2}} = \sqrt{2}\,\pi = 4.4429\ldots \approx 4.44$$

  • 2π:正弦波を微分したときの角周波数 $\omega$
  • √2:最大値 → 実効値の換算

きれいに √2 π と書けます。4.44は丸めた値で、正確には4.4429…です。教科書が4.44で止めているのは、実際の設計では鉄損や励磁電流の見積もり誤差のほうがはるかに大きく、3桁で足りるからです。

方形波駆動:なぜ 4 なのか

次に、フルブリッジやプッシュプルの出力のように、電圧が +V と −V を交互に取る方形波の場合を考えます。

電圧が一定なら、磁束は直線的に増えていきます(積分だから)。つまり磁束波形は正弦波ではなく三角波になります。ここが正弦波の場合との決定的な違いです。

[[sim:volt-second]]

では式にします。半周期のあいだ、電圧は一定値 $V$ です。磁束はその間に $-\Phi_m$ から $+\Phi_m$ まで、つまり $2\Phi_m$ だけ変化します。かかる時間は半周期 $T/2 = 1/(2f)$ です。

$$V = N\,\dfrac{\Delta\Phi}{\Delta t} = N\,\dfrac{2\Phi_m}{1/(2f)} = 4\,f N \Phi_m$$

そして方形波は、振幅と実効値が同じ(ずっと同じ大きさなので)です。だからこの式はそのまま実効値の式になります。$\sqrt{2}$ で割る操作が要らない、というのが正弦波との一番の違いです。

4 の中身は 2 × 2

  • 最初の2:磁束が $-\Phi_m$〜$+\Phi_m$ と両振りする(振れ幅は $2\Phi_m$)
  • 次の2:それが半周期 $1/(2f)$ で起きる

4.44 のように超越数も無理数も出てきません。方形波の式のほうが、むしろ素朴で分かりやすい形をしています。

統一して見る:磁束を決めるのは「ボルト秒積」

ここまでを1つの見方にまとめます。磁束を決めているのは電圧波形の面積であって、実効値ではありません。面積=整流平均値 × 時間なので、平均値で書けば、波形によらず係数は4になります。

■ 波形によらず成立する基本形(整流平均値)

$$E_{\mathrm{avg}} = 4\,f N \Phi_m$$

ところが私たちが電圧計で読み、仕様書に書くのは実効値です。実効値と平均値の比を波形率 $K_f$ と呼びます。

$$K_f = \dfrac{E_{\mathrm{rms}}}{E_{\mathrm{avg}}} \quad\Longrightarrow\quad E = 4K_f\,f N \Phi_m$$

($E_{\mathrm{rms}}$:実効値/$E_{\mathrm{avg}}$:整流平均値)

波形率でつながる

あとは波形ごとに $K_f$ を入れるだけです。

電圧波形

波形率 $K_f$

実効値の係数($4K_f$)

どこで出てくるか

方形波

1

4

フルブリッジ・プッシュプル出力(インバータ、DAB)

正弦波

$\pi/(2\sqrt{2}) \approx 1.111$

4.44

商用周波(50 / 60Hz)の系統

三角波(参考)

$2/\sqrt{3} \approx 1.155$

4.62

—

つまり、4.44と4を隔てている1.11は、正弦波の波形率そのものです。「正弦波は、同じ実効値の方形波に比べて面積が11%少ない」——これを言い換えただけの数字でした。

納得しやすい形で言うと、正弦波はピーク付近にいる時間が短く、ゼロ付近を通る時間もあります。方形波は常にフルの電圧を掛け続けます。だから同じ実効値でも方形波のほうが磁束を多く作るのです。

数字で確かめる

抽象的な話になったので、実際に計算します。以下、コアの実効断面積 $A_e = 400\ \mathrm{mm^2}$($= 4.0\times10^{-4}\ \mathrm{m^2}$)とします。

同じコア・同じ巻数に、何ボルト掛けられるか

条件:$f = 50\ \mathrm{Hz}$、$N = 1{,}000$ 巻、$B_m = 1.2\ \mathrm{T}$(ケイ素鋼板)

駆動波形

計算

掛けられる電圧(実効値)

正弦波

4.44 × 50 × 1000 × 1.2 × 4.0×10⁻⁴

約 106.6 V

方形波

4 × 50 × 1000 × 1.2 × 4.0×10⁻⁴

約 96.0 V

同じコア・同じ巻数でも、方形波では掛けられる実効値が約11%低くなります。言い換えれば、106.6Vの方形波を掛ければ $B_m$ は1.2Tを超えて飽和に入ります。

同じ電圧を掛けるなら、巻数はどう変わるか

条件:$E = 100\ \mathrm{V}$、$f = 50\ \mathrm{Hz}$、$B_m = 1.2\ \mathrm{T}$

駆動波形

必要な巻数

差

正弦波

約 939 巻

—

方形波

約 1,042 巻

+103巻(約 +11%)

巻数を11%増やすか、コア断面積を11%増やすか、どちらかで吸収することになります。窓面積にも銅損にも効いてくるので、設計初期に間違えると後戻りが大きい部分です。

周波数を上げるとどれだけ小さくなるか

この式は「高周波トランスはなぜ小さいのか」の答えにもなっています。1巻あたりの電圧を比べます。

条件

1巻あたりの電圧

50Hz 正弦波・ケイ素鋼板($B_m = 1.2\ \mathrm{T}$)

約 0.107 V/巻

20kHz 方形波・フェライト($B_m = 0.3\ \mathrm{T}$)

約 9.6 V/巻

約90倍です。周波数は400倍になっているのに90倍で止まっているのは、フェライトで使える磁束密度(この例では0.3T)がケイ素鋼板(1.2T)の1/4しかないぶん(400倍→100倍)と、方形波の係数4が正弦波の4.44より約1割小さいぶん(100倍→約90倍)を差し引いているからです。

「高周波化すれば小さくなる」は正しいけれど、コア材の飽和磁束密度が下がるぶんだけ目減りする——この2つをセットで見るのが、実際のコア選定です。

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設計と現場でどう効くか

① 4.44で設計して方形波で駆動すると、11%飽和側に寄る

一番ありがちな失敗です。商用周波の設計手順をそのままインバータ用に流用すると、実機の $B_m$ が計算値の1.11倍になります。1.2Tで設計したつもりが1.33Tだった、というような話です。

飽和に入ると、励磁電流が急に跳ね上がり、うなり音が出て、温度が上がります。「計算では余裕があるのに、なぜか熱い」という症状の原因がここだったというケースは珍しくありません。

② PWMではデューティが磁束を決める

実際のインバータ出力は、きれいな方形波ではなくゼロ期間を含むPWM波形です。この場合、磁束を決めるのは相変わらずボルト秒積なので、直流電圧 $V_{dc}$ とデューティ $D$(半周期のうち電圧を掛けている時間の割合)で次のようになります。

$$B_m = \dfrac{V_{dc}\,D}{4\,f N A_e}$$

デューティが大きいほど磁束は大きくなります。設計は $V_{dc}\,D$(ボルト秒)が最大になる最悪条件で見ます。

ここで見落としがちなのは、定格運転時ではなく、起動時や過渡時に $D$ が最大になることがある点です。定格だけ見て設計すると、起動のたびに飽和する設計ができあがります。

③ ボルト秒の不均衡=偏磁(flux walking)

方形波駆動でもう1つ気をつけるのが、正側と負側のボルト秒積が完全に等しくないときの挙動です。

差が残ると、磁束は1周期ごとに少しずつ片側へずれていきます。これが偏磁(flux walking)で、数十サイクルで飽和に到達することもあります。原因は、ゲート駆動のばらつき、素子のオン電圧差、デッドタイムの非対称など、どれも「ごく小さな差」です。

対策としては、直流阻止コンデンサ(ブロッキングコンデンサ)を直列に入れる、電流モード制御でサイクルごとに補正する、といった回路側の手当てが基本になります。トランス側からは、偏磁を前提にした飽和マージンを取っておくという設計判断になります。

④ 鉄損は、同じ周波数・磁束密度でも波形で変わる

コア材のデータシートに載っている鉄損の値は、ほとんどが正弦波励磁で測ったものです。Steinmetzの式

$$P_v = k\,f^{\alpha} B_m^{\beta}$$

も正弦波前提です。ところが方形波駆動では $dB/dt$ が一定になるため、同じ $f$・同じ $B_m$ でも損失が一致しません。そのため実務では、修正Steinmetz式(MSE)やiGSEといった波形を考慮した補正を使います。

「4と4.44を正しく使い分けて $B_m$ を合わせたのに、温度上昇が計算と合わない」という場合、この鉄損側の波形依存を疑うことになります。

関連記事鉄損と銅損(無負荷損・負荷損)とは?発生の仕組みと設計バランスをメーカーが解説

⑤ 測定の罠:平均値整流形の電圧計は方形波で11%高く出る

最後に、現場で実際にハマる話をひとつ。

アナログテスタや安価なデジタルマルチメータの交流電圧レンジは、平均値整流形です。整流平均値を測って、正弦波の波形率1.111を掛けて実効値として表示しています。

ここに方形波を入れるとどうなるか。方形波の波形率は1なので、真の実効値は整流平均値と同じです。にもかかわらずメータは1.111を掛けるので、表示は真値より約11%高く出ます。

実効値を正しく知りたいなら、真の実効値(True RMS)タイプの計測器を使う。

磁束を知りたいなら、そもそも実効値ではなく、オシロで電圧波形の面積(ボルト秒積)を見る。

1.11という数字が、式の中と測定器の中の両方に出てくる——ここが混乱しやすいところです。どちらも「正弦波の波形率」という同じ正体なのだと分かれば、整理がつきます。

よくある質問

4.44 という数字はどこから来ていますか?

2π ÷ √2 です。√2 π とも書けて、正確な値は4.4429…になります。2π は正弦波を微分したときの角周波数 ω から、√2 は最大値を実効値に換算する操作から来ています。4.44は3桁に丸めた値です。

方形波駆動なのに 4.44 を使うと、どうなりますか?

同じ実効値に対して磁束を約11%小さく見積もることになり、実機は計算より飽和側に寄ります。励磁電流の増加、うなり音、温度上昇として現れます。逆に正弦波駆動に4を使うと11%過剰設計になり、コアが必要以上に大きくなります。

E = 4 f N Φm は方形波専用の式ですか?

いいえ。整流平均値について書くなら、E(平均) = 4 f N Φm は波形によらず成立する基本形です。方形波では「実効値=整流平均値」なので、そのまま実効値の式として使えるというだけです。実効値で書こうとしたときに、波形率が係数として顔を出します。

Φm と Bm はどう使い分けますか?

Φm=Bm × Ae(最大磁束密度 × コアの実効断面積)の関係です。理論式では Φm、実際の設計ではコア材の飽和磁束密度から攻めるので Bm と Ae に分けた形をよく使います。Ae は幾何学的な断面積ではなく、積層率などを織り込んだ実効値を使う点に注意してください。

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