トランスやリアクトルの勉強をしていると、次の2つの式に出会います。

$$B = \frac{\mu N I}{\ell} \qquad\qquad B = \frac{1}{NS}\int v\,dt$$

左の式では、磁束密度 $B$ は巻数 $N$ に比例します。右の式では、$N$ に反比例します。では、巻数を増やすと $B$ は増えるのでしょうか、減るのでしょうか。

答えは「何を固定しているかによる」です。2つの式はどちらも正しく、矛盾もしていません。この記事では、その理由と、トランス・リアクトル設計での使い分けを説明します。

式①:アンペアの法則 ― 電流を固定したとき

コアの磁路長を $\ell$、透磁率を $\mu$ とすると、アンペアの法則から磁界の強さ $H$ と磁束密度 $B$ は次のようになります。

$$H = \frac{NI}{\ell}, \qquad B = \mu H = \frac{\mu N I}{\ell}$$

この式の前提は、電流 $I$ が決まっていることです。電流が同じなら、巻数を増やすほど起磁力 $NI$ が大きくなり、$B$ も $N$ に比例して大きくなります。

式②:ファラデーの法則 ― 電圧を固定したとき

巻線に電圧 $v$ をかけると、ファラデーの法則により、1ターンあたり $v/N$ の電圧に見合うだけ磁束が変化します。コアの断面積を $S$ とすると、

$$B = \frac{1}{NS}\int v\,dt$$

この式の前提は、電圧 $v$(と周波数)が決まっていることです。電圧が同じなら、巻数を増やすほど1ターンあたりの電圧が下がり、$B$ は $N$ に反比例して小さくなります。

正弦波の電圧(実効値 $V$、周波数 $f$)をかけたときの最大磁束密度 $B_m$ は、次の式で表されます。

$$B_m = \frac{V}{4.44\, f N S}$$

$4.44$ は $\sqrt{2}\pi$ から来る係数です。電圧を時間で積分した量(電圧と時間の積)が磁束を決める、というのがこの式の本質です。

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2つの式は矛盾しない

2つの式の違いは、固定している量だけです。

  • 式①:電流 $I$ を固定 → $N$ を増やすと $B$ は増える
  • 式②:電圧 $V$・周波数 $f$ を固定 → $N$ を増やすと $B$ は減る

実際の回路では、電圧と電流を両方とも自由に決めることはできません。電圧源につながれば電圧が決まり、電流はそれに従います。電流源(や負荷電流)で決まる回路では、電流が決まり、電圧がそれに従います。どちらに縛られているかで、使うべき式が変わるのです。

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トランスの場合:巻数を増やすとBmは下がる

トランスの一次巻線は、ふつう商用電源などの電圧源につながります。そのため、$B_m$ は式②で決まります。

では式①は不要かというと、そうではありません。式①は「式②で決まった $B$ を作るために、どれだけの電流が要るか」、つまり励磁電流を決める式として働きます。

巻数を増やすと、次のように変わります。

  • $B_m$ は $1/N$ に下がる
  • 励磁電流も減る(コアの透磁率が一定とみなせる範囲では、励磁インダクタンスが $N^2$ に比例するので、励磁電流はおよそ $1/N^2$。実際の鉄心は磁束密度によって透磁率が変わるので、あくまで目安)
  • 鉄損(ヒステリシス損・渦電流損)は $B_m$ とともに下がる

一方で、巻数を増やすと巻線が長くなり、銅損や巻線の体積が増えます。実際の設計では、$B_m$ がコア材の飽和磁束密度を超えないように、巻数 $N$ とコア断面積 $S$ を選び、鉄損と銅損のバランスを取ります。

数値例:N=100とN=200を比べる

同じコア(断面積 $S = 30\ \mathrm{cm^2} = 3.0\times10^{-3}\ \mathrm{m^2}$)に、同じ電圧 $V = 100\ \mathrm{V}$、$f = 50\ \mathrm{Hz}$ をかけたとします。

$N = 100$ ターンのとき:

$$B_m = \frac{100}{4.44 \times 50 \times 100 \times 3.0\times10^{-3}} = \frac{100}{66.6} \approx 1.50\ \mathrm{T}$$

$N = 200$ ターンのとき:

$$B_m = \frac{100}{4.44 \times 50 \times 200 \times 3.0\times10^{-3}} = \frac{100}{133.2} \approx 0.75\ \mathrm{T}$$

巻数を2倍にすると、$B_m$ はちょうど半分になります。1ターンあたりの電圧が 1 V から 0.5 V に下がったためです。

なお、ここでの 1.50 T は計算の例です。実際に使える $B_m$ は、コア材や周波数、許される鉄損・温度上昇によって変わります。

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リアクトルの場合:つなぎ方で答えが変わる

リアクトルは、回路の中でのつながれ方によって、電圧で縛られる場合と電流で縛られる場合があります。さらに、インダクタンスを固定して考えるかどうかでも答えが変わるので、順に見ていきます。

電圧が直接かかるリアクトル(交流)

電源に並列につながり、交流電圧が直接かかるリアクトルでは、トランスと同じく式②が支配的です。

$$B_m = \frac{V}{4.44\, f N S} \propto \frac{1}{N}$$

電流で決まるリアクトル(ギャップとコアを固定した場合)

実は、リアクトルは回路に直列に入り、負荷で決まる電流が流れる使い方のほうが一般的です。インバータやコンバータの平滑リアクトル、入力・出力のACリアクトル、PFC(力率改善)回路のチョークなどがそうです。このとき、ギャップとコアをそのままにして巻数だけを変えるなら、式①が支配的です。

$$B = \frac{\mu N I}{\ell}$$

ギャップ入りのコアで、ギャップの磁気抵抗が支配的なときは、ギャップ長を $l_g$ として次のように近似できます。

$$B \approx \frac{\mu_0 N I}{l_g}$$

この場合、同じ電流・同じギャップで巻数を増やすと $B$ は増え、コアは飽和しやすくなります。ただし、このときインダクタンスも一緒に変わっている点に注意が必要です。ギャップ入りのコアのインダクタンスは

$$L \approx \frac{\mu_0 N^2 S}{l_g}$$

なので、巻数を2倍にすると $L$ は4倍になります。「$B$ が比例して増える」のは、インダクタンスが勝手に増えるのを許した場合の話です。

設計の見方:インダクタンスLを固定すると反比例

実際のリアクトル設計では、必要なインダクタンス $L$ と流す電流 $I$ は仕様で決まっています。巻数を変えても $L$ は変えられないので、ギャップ長を調整して $L$ を合わせます。

巻線の磁束鎖交数は $N\Phi = LI$ なので、磁束 $\Phi = LI/N$ です。これをコア断面積 $S$ で割ると、

$$B_m = \frac{L\, I_{pk}}{N S}$$

となります($I_{pk}$ は電流のピーク値)。$L$ と $I_{pk}$ が決まっていれば、巻数を増やすほど $B_m$ は下がる、つまり反比例です。トランスと同じ向きになります。

その代わり、$L$ を保つにはギャップを広げる必要があります。上の $L$ の式から $l_g \approx \mu_0 N^2 S / L$ なので、巻数を2倍にするとギャップはおよそ4倍です。ギャップが広がるとギャップの周りに磁束がはみ出し(フリンジング)、近くの巻線で損失が増えることがあるので、巻数とギャップのバランスを取ります。

直列に入るACリアクトルも、$L$ と電流が決まっていれば両端の電圧 $V = \omega L I$ も決まります。電圧の側から見ても電流の側から見ても、$B_m$ は $1/N$ になり、答えは一致します。

なお、平滑リアクトルでも、直流電流に重なるリプル(電流の変動分)による磁束の振れ幅 $\Delta B$ は、巻線にかかる電圧と時間の積で決まります(式②の考え方)。直流分は電流で、変動分は電圧で縛られていると見ると整理しやすくなります。

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まとめ表

固定している量

主に使う式

巻数 $N$ を増やすと $B_m$ は

代表例

電圧・周波数

$B_m = \dfrac{V}{4.44 f N S}$

減る($\propto 1/N$)

トランス、電圧が直接かかる交流リアクトル

電流(ギャップ・コアも固定)

$B = \dfrac{\mu N I}{\ell} \approx \dfrac{\mu_0 N I}{l_g}$

増える($\propto N$)
※ $L$ も $N^2$ で増える

リアクトルの巻数だけを増やしたとき

電流とインダクタンス $L$(ギャップで調整)

$B_m = \dfrac{L\, I_{pk}}{N S}$

減る($\propto 1/N$)

リアクトルの設計($L$ と電流が仕様で決まる)

一言まとめ

巻数と磁束密度の関係に迷ったら、まず「電圧で縛られているのか、電流で縛られているのか」を見てください。電圧で縛られていれば、巻数を増やすと $B_m$ は下がります。電流で縛られていても、上がるのはギャップとコアを変えずに巻数だけ増やし、インダクタンスまで増えてしまう場合です。

電圧やインダクタンスを仕様として固定する設計の見方なら、「巻数を増やせば $B_m$ は下がる」はトランスにもリアクトルにも基本的に成り立ちます。「トランスは反比例、リアクトルは比例」と覚えるより、何を固定しているかを毎回確かめるのが確実です。