AIデータセンターの電力密度が上がり、ラック1本で数百kW、さらに1MWという世界に入ってきました。同じころ、EVの急速充電も乗用車向けの150〜350kWから、商用車向けのメガワット級へと進もうとしています。

この2つはまったく別の業界の話に見えますが、電源側から見ると要求はほぼ同じです。中圧の系統から、大電流の直流を、できるだけ少ない変換段数と設置面積で取り出したい——ここに行き着きます。

そこで検討が進んでいるのが SST(Solid-State Transformer/ソリッドステートトランス、半導体変圧器) です。商用周波数(50/60Hz)の鉄心変圧器を、パワー半導体の高周波スイッチングと小型の中周波トランスに置き換える、という考え方です。

この記事では、SSTの構成を整理したうえで、データセンターの直流給電とEV充電器でなぜ検討されているのか、そしてその中心にある中周波トランス(MFT)にどんな設計課題があるのかを、トランス・リアクトルメーカーの視点で解説します。

SST(ソリッドステートトランス)とは?

「変圧器」を半導体で置き換える

通常の変圧器は、50/60Hzの交流を鉄心と巻線だけで昇降圧します。構造がシンプルで堅牢、効率も高く、何十年も動き続ける——優れた部品です。ただし周波数が低いほど鉄心が大きくなるという物理からは逃れられません。

変圧器の巻線電圧は、方形波で駆動する場合おおよそ次の式で決まります。

$$V = 4\,f\,N\,B_m\,A_e$$

($f$:周波数/$N$:巻数/$B_m$:最大磁束密度/$A_e$:コアの実効断面積)

同じ電圧・同じ磁束密度なら、周波数を上げた分だけコアの断面積を小さくできるということです。50Hzを20kHzにすれば、理屈のうえでは断面積は1/400になります。

もちろん実際には、鉄損・巻線の高周波損失・絶縁・放熱の制約があるので単純に1/400にはなりません。それでも体積と質量を半分から1/3程度にできるというのが、SSTを手がける各社に共通する主張です。

SSTは、この「高周波化による小型化」を成立させるために、トランスの前後をパワー半導体で挟んだ構成をとります。

基本は3段構成

  1. 入力段(AC/DC):中圧交流を整流して、セルごとの直流リンクを作ります。中圧を1個の素子で受けることはできないので、カスケードHブリッジ(CHB)やMMCのように複数セルを直列にして電圧を分担させるのが一般的です。
  2. 絶縁段(DC/DC):各セルの直流を、中周波トランス(MFT)を挟んだDABコンバータやLLCで変換し、一次と二次を電気的に絶縁します。ここが従来の「変圧器」に相当する部分です。
  3. 出力段:各セルの出力直流を並列にまとめて、800V DCなどの低圧直流バスを作ります。交流が必要ならインバータを足します。

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絶縁段を双方向にできることは、SSTの大きな特徴です。データセンターの蓄電池、EVのV2G、再エネの逆潮流——どれも「電力が両方向に流れる」前提の用途で、商用周波トランス+整流器の構成では別途つくり込みが必要だった部分です。

関連記事DABコンバータ(デュアルアクティブブリッジ)とは?双方向・絶縁の仕組みと高周波トランスの役割

従来の「変圧器+整流器」と何が違うか

項目

商用周波トランス+整流器

SST

変圧の周波数

50 / 60Hz

数kHz〜数百kHz

体積・質量

大きい

1/2〜1/3程度(各社主張)

電圧制御

タップ切替のみ(粗い)

高速・連続に可変

電流制限・遮断

遮断器が別途必要

制御で電流制限・ブロック可能

力率・高調波

別途対策が必要

入力段で制御できる

双方向

整流器の構成次第

標準で双方向

コスト・実績

安い・圧倒的な稼働実績

高い・実績はこれから

表の下2行が重要です。SSTは「性能では勝てるが、コストと実績ではまだ勝てない」段階にあります。だからこそ、従来構成では物理的に成り立たない場所から検討が始まっています。それがデータセンターとEV充電です。

なぜデータセンターで検討されているのか

800V DC給電への移行

AI向けサーバでは、ラックあたりの消費電力が数十kWから数百kW、さらに1MW級へと上がっています。従来の低圧交流配電のままでは、同じ電力を運ぶのに電流が大きくなりすぎて、ブスバーとケーブルが物理的に収まらないという問題が出ます。

そこで打ち出されているのが 800V DC(HVDC)配電です。NVIDIAが2025年のCOMPUTEXで800V HVDCアーキテクチャを公表して以降、業界全体がこの方向に動いており、日本でも2026年7月のTECHNO-FRONTIER 2026で、STマイクロエレクトロニクスが800V DC対応の電源ソリューションを国内初公開しています。

理屈は単純で、電圧を倍にすれば同じ電力なら電流は半分、導体の抵抗損は1/4です。配電のロスと銅の使用量を同時に減らせます。

SSTが狙うのは「変換段数」と「置き場所」

現在のデータセンターは、

中圧受電 → 商用周波トランスで低圧交流 → UPS → PDU → サーバ電源

と変換段数が多く、各段で数%ずつ失われます。SSTは中圧交流から直接800V DCを作ることで、途中の商用周波トランスと整流段をまとめてしまおう、という構想です。期待されている効果は次のとおりです。

  • 変換段数が減る(端から端での効率改善が見込まれる)
  • 商用周波トランス室の設置面積と質量を大きく削減できる
  • 電圧変動や負荷急変にミリ秒で応答できる(AI負荷は変動が非常に激しい)
  • 故障時に半導体側で電流を制限・遮断できる

最後の項目は見落とされがちですが、現場では効きます。ある業界パネルでの発言を借りれば、「SSTはパワーエレクトロニクス回路なので、止められるし、出力電流を制限することも、直流電圧をブロックすることもできる。変圧器ではそう簡単にいかない」ということです。

一方で、1MW級のSSTを実際に納入した例はまだ多くありません。2026年時点では、100〜300kW級のモジュールが商用提供され、ハイパースケーラのパイロット導入と各社の実証が進んでいる段階、というのが実情です。

EV急速充電器での適用

充電器側の事情も、データセンターとよく似ています。

乗用車向けの150〜350kW充電でも、現状は「キュービクルの商用周波トランスで低圧に落とす → 整流 → 絶縁DC/DC → 充電器出力」という構成で、トランスと充電器で相応の敷地を使います。

さらに商用車(トラック・バス)向けの MCS(Megawatt Charging System) は、コネクタ規格として最大1,250V/3,000A=3.75MWを想定しています(実運用は冷却の都合で2,000A程度が現実的とされます)。1台で1MWを超える充電器を複数台並べる前提になると、低圧側の設備規模が現実的でなくなります。

SSTを使えば、中圧(日本なら6.6kV)から直接、充電に必要な直流を作れる可能性があります。期待されているのは次の点です。

  • 商用周波トランスと低圧盤を省いて、設置面積と周辺設備(BOS)コストを削減できる
  • 双方向なので、V2G(車両から系統への逆潮流)や蓄電池との協調がやりやすい
  • 入力段で力率制御・高調波抑制ができ、系統への影響を抑えられる
  • 出力電圧を広い範囲で可変にでき、400V系・800V系が混在する車両に1台で対応しやすい

もっとも、国内で使うには、6.6kV受電設備としての保護協調や系統連系の整理、保守体制(半導体が故障したときの復旧手段)など、技術以外の詰めが残っています。このあたりは、従来の変圧器が「置いておけば動く」ものだっただけに、運用側の考え方の転換が要る部分です。

SSTの心臓部は「中周波トランス(MFT)」

ここからがトランスメーカーとしての本題です。SSTの絶縁段には、中周波トランス(MFT:Medium Frequency Transformer)が必ず入ります。これは「小さくなった変圧器」ではなく、商用周波トランスとは設計思想が別物の部品です。

難しいのは「中圧絶縁 × 高周波 × 高効率 × 小型」の同時成立

MFTに課される条件は、一つひとつを見ればどれも珍しくありません。難しいのは、それを同時に満たすことです。

  • 一次側は数kV〜十数kVの中圧絶縁が必要
  • 動作周波数は10kHz〜100kHz超(GaNを使う設計では150kHz以上の例も)
  • 波形は正弦波ではなく、立ち上がりの速い(高dv/dt)方形波
  • 効率は99%以上が要求される(数百kWで1%の損失=数kWの発熱)
  • しかも小さく・軽くなければ、SSTを採用する意味がない

以下、設計上の勘所を5つに分けて整理します。

① コア材:ナノ結晶かフェライトか

周波数が上がると、鉄損(ヒステリシス損+渦電流損)が効いてきます。MFTで使われるのは主に次の3つです。

コア材

飽和磁束密度

得意な帯域

位置づけ

ナノ結晶

1.2T前後と高い

数kHz〜数十kHz

大容量MFTの主流

アモルファス

1.5T前後

数kHz〜十数kHz

中間的な選択

フェライト

0.4T前後と低い

数十kHz〜数百kHz

高周波向き・同容量だと大きくなる

文献では、200kVA/10kHzのナノ結晶コアMFTで効率99.45%、パワー密度8MW/m³という報告があります。20kHz級でも98.5〜99.2%という数字が出ており、「高周波にすれば小型高効率になる」というのは、適切なコア材と巻線を選べばという条件つきで成立する、ということがわかります。

② 巻線:表皮効果と近接効果をどう殺すか

数十kHzでは、導体の中を電流が均一には流れません。表皮効果で電流が導体表面に寄り、さらに隣の導体が作る磁界による近接効果で偏りが悪化します。太い単線を使っても、断面の内側は電流が流れず、銅としては無駄になります。

対策の定番がリッツ線です。文献のMFT設計例では、AWG36〜40クラスの細い素線を撚ったリッツ線が使われています。ただし万能ではなく、

  • 素線が細いほど高周波特性は良いが、占積率が落ちて巻線が太る
  • 端末処理(素線すべてを確実に接続する)に手間と技術が要る
  • 単純にコストが上がる

というトレードオフがあります。周波数・電流・窓面積を見ながら素線径と本数を決めていく、地道な作業です。

関連記事表皮効果・近接効果とは?高周波巻線の損失とリッツ線をメーカーが解説

③ 絶縁:中圧+高dv/dtは部分放電との戦い

MFTで最も難しいのは絶縁だ——というのが、近年の研究の共通見解です。理由は3つあります。

  1. 小さくしたいのに、中圧の絶縁距離は縮められない。沿面距離・空間距離は電圧で決まるので、小型化の要求と正面からぶつかります。
  2. 高周波の方形波では、絶縁物内部の電界分布が商用周波と違う。静電容量による分担が支配的になり、局所的に電界が集中しやすくなります。
  3. 高dv/dtが部分放電(PD)を誘発する。しかも一度始まると、高い繰り返し周波数で絶縁を急速に劣化させます。

3番目が決定的です。商用周波トランスなら「多少のPDがあっても寿命の範囲内」で済んでいたものが、数十kHzでは1秒あたりの放電回数が桁違いになります。結果として、PDフリー設計(PDIVを使用電圧より十分高く取る)が事実上の必須要件になります。

具体的な手当ては、私たちが高圧トランスや樹脂封止品で日常的に向き合っている内容そのものです。

  • エポキシの真空注型・含浸でボイド(気泡)を残さない
  • 巻線端部にシールド層・電界緩和層を入れて電界集中を避ける
  • ボビン形状そのものを絶縁設計の一部として作り込む
  • 絶縁物の誘電損も発熱源になるため、材料選定を熱設計と一体で行う
関連記事部分放電とは?発生の仕組みと絶縁劣化・対策をメーカーが解説

④ 漏れインダクタンスは「減らす」のではなく「作り込む」

普通のトランスでは、漏れインダクタンスは損失や電圧降下の原因で、できるだけ小さくしたい量です。ところがDABやLLCでは、漏れインダクタンスそのものが電力伝送を担う回路素子になります。

DABの伝送電力は、位相差 $\varphi$ に対しておおむね次の形になります。

$$P = \dfrac{n\,V_1 V_2}{2\pi f_s L}\,\varphi\left(1 - \dfrac{|\varphi|}{\pi}\right)$$

($n$:巻数比/$f_s$:スイッチング周波数/$L$:漏れインダクタンス(+外付けインダクタ)/$\varphi$:位相差[rad])

分母に $L$ が入っています。つまり $L$ が設計値からずれれば、狙った電力が出ない、あるいはZVS(ゼロ電圧スイッチング)が外れて損失が跳ね上がるということです。

結果として、MFTは「漏れインダクタンスを指定値に対して数%の精度で作る」ことが求められる部品になります。外付けインダクタで合わせる設計もありますが、部品点数と体積が増えるため、トランスに内蔵する(インダクタ統合型)設計が主流になりつつあります。

これは、巻線配置・絶縁距離・コア形状を電気的な狙い値から逆算して決めるという、従来とは向きの違う設計です。「絶縁のために離す」と「Lを合わせるために離す/近づける」が同じ寸法の取り合いになるため、絶縁設計と回路設計を分けて考えることができません。

⑤ 熱:効率99%でも「どこで冷やすか」が残る

数百kWのMFTで効率99%なら、損失は数kW。それが小さな体積に集中します。しかも絶縁のために樹脂で固めるほど、熱の逃げ道は絶縁物の中を通ることになるので、絶縁材の熱伝導率がそのまま設計を左右します。

「絶縁のために厚くしたい」と「放熱のために薄くしたい」という相反する要求をどう折り合わせるか。ここがMFT設計の勘所で、机上計算だけでは決まらず、温度上昇試験で裏を取る必要がある部分です。

課題と現在地(2026年)

SSTは「研究段階」を抜けつつありますが、置き換えが本格的に進むにはまだ壁があります。

① コスト

最大のネックは中圧対応SiC(1.7〜3.3kV)の価格です。素子の入手性より価格のほうが問題だ、というのが業界の見方で、より高周波で動くGaNによるコストダウンに期待が寄せられています。なお、IGBTでは50kHz以上の高周波化に伴うスイッチング損失が大きすぎるため、SSTの文脈ではほぼ選択肢に上がりません。

② 実績・信頼性

商用周波トランスには数十年の稼働実績があります。一方SSTは、半導体・ゲート駆動・コンデンサ・制御基板と故障要因が多く、「20年以上、止まらずに動くか」の証明がこれからです。冗長構成や保守設計まで含めた評価が必要になります。

③ 規格・系統連系

中圧に直接つなぐ機器である以上、保護協調、地絡・短絡時の挙動、絶縁協調、EMCなど、整理すべき事項が多くあります。800V DC側も、直流遮断・接地方式・コネクタなどの標準化が現在進行形です。

④ 供給網

皮肉な話ですが、商用周波トランスの納期が長期化していること自体がSSTの追い風になっているという指摘もあります。銅と鉄の供給制約から逃れられる、という理由です。

これらを踏まえると、現時点の現実解は「全部SSTに置き換える」ではありません。設置面積・電流密度・双方向性のどれかで従来構成が破綻する領域から入る、という見立てです。AIデータセンターの800V DC化とメガワット充電は、まさにその領域にあたります。

トランスメーカーとして、どう関わるか

SSTそのものはパワーエレクトロニクスの装置です。しかしその中には必ず「中圧絶縁を持った高周波トランス」が入ります。そしてそこで問われるのは、

  • 中圧の絶縁設計(沿面距離・空間距離、電界緩和、絶縁協調)
  • ボイドのない樹脂封止(真空注型・含浸)
  • 部分放電の測定と、PDIVで裏取りされた設計
  • 高周波巻線(リッツ線)の損失設計と端末処理
  • 漏れインダクタンスを狙い値に作り込む巻線設計
  • 温度上昇試験による熱設計の検証

という、トランスメーカーが長く積み上げてきた領域です。半導体が変圧器を置き換えるという話に聞こえて、実のところ要求水準が上がった変圧器が中に残る——それがSSTの構造です。

北川電機は、高圧トランス・高周波トランス・リアクトルの特注設計と、樹脂封止・部分放電試験・温度上昇試験といった評価を手がけています。SST向けMFTのように「中圧絶縁 × 高周波 × 漏れインダクタンス指定」が重なる要求は、まさにこれらが交差する領域です。

構想段階の仕様でも、「この容量・この周波数で、この絶縁距離は成立するか」といったご相談から対応できます。

よくある質問

SSTはいつ実用化されますか?

用途によります。100〜300kW級のモジュールはすでに商用提供が始まっており、2026年時点でハイパースケーラのパイロット導入段階です。一方、系統用の大容量SSTや、日本国内の配電設備としての本格採用は、規格・系統連系の整理を含めてもう少し時間がかかる見込みです。

SSTが普及すると、従来の変圧器は不要になりますか?

当面はなりません。SSTが有利なのは「設置面積が厳しい」「双方向が要る」「高速な電圧制御が要る」といった条件が揃う場所で、コストと実績を重視する一般的な受変電では商用周波トランスが引き続き主役です。むしろSSTの内部には高周波トランスが必要になるため、トランスの需要そのものは形を変えて残ります。

中周波トランス(MFT)と、普通の高周波トランスは何が違いますか?

一番の違いは「中圧絶縁」と「容量」です。数十〜数百kWを扱いながら、一次側に数kV〜十数kVの絶縁を持たせる必要があり、部分放電を起こさない絶縁設計が前提になります。加えて、漏れインダクタンスを回路の設計値に合わせて作り込む点も、一般的な高周波トランスとは異なります。

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